普段何気なく使用しているのが抗菌薬です。
種類も様々なものがあり、医師の処方通りに投与するのが看護師の役割と思うかもしれません。
その投与の目的や影響を知ることで、普段の看護ケアに意味を見出すことができ、
やりがいにつながるかもしれません。
抗菌薬はどのような点に注視していくのかをみていきましょう。
注射薬の準備
①準備した薬剤に間違いがないか確認する
②必ず無菌操作を行い、注射薬の細菌汚染を防ぐ
③できるだけ注射をする直前に溶解や混合をする
①、②は基本ですが、忙しい病棟業務の中で「使用する直前に溶解や混合をする」というのは、
現実的に厳しいと思います。
では、どの程度許容されるのかというところが問題です。
混注したまま置いておけば、ゴム栓部分からの細菌混入のリスクが高まります。
そして時間が経つと抗菌薬の効き目が悪くなる場合があります。
薬剤によって異なりますが、1時間~8時間程度で効果が減弱することが認められています。
よって、最長でも1時間以内に投与できるように溶解・混合する必要があります。
もしも早すぎる溶解・混合をしてしまった場合は、
冷所保存することで6時間程度は効果を保つことができます。
抗菌薬投与の順番
2種類の抗菌薬を使用する場合、投与の順番に注意する必要があります。
①感染症の原因菌が不明、もしくは複数菌感染が疑われる場合
②併用によって相乗効果を期待する場合
①は異なるスペクトラムの抗菌薬を使用することで、広域に抗菌効果を生じます。
②の併用例を記します。
併用抗菌薬 | 投与順序 | 理由 |
---|---|---|
β-ラクタム系+ アミノグリコシド | アミノグリコシド系 ⇒β-ラクタム系 | ・アミノグリコシドを先に投与して生菌数を減らしてから β-ラクタム系を投与した方が効果が高い ・β-ラクタム系の細胞壁障害作用がアミノグリコシドの 菌体内への移行を助ける |
ホスホマイシン+ β-ラクタム系 | ホスホマイシン ⇒β-ラクタム系 | ペプチドグリカン合成初期段階を阻害することなど、 いくつかのホスホマイシンの作用によってβ-ラクタム系の 効果が発揮できやすい条件になる |
バンコマイシン+ β-ラクタム系 | β-ラクタム系 ⇒バンコマイシン | バンコマイシンを先に投与すると、増殖期の細菌に作用 するβ-ラクタム系の効果が減弱する可能性がある |
ミノサイクリン+ β-ラクタム系 | β-ラクタム系 ⇒ミノサイクリン | ミノサイクリンを先に投与すると、拮抗作用によって β-ラクタム系の効果が減弱する拮抗作用が認められている ため、投与順序には特に注意が必要 |
バンコマイシン+ アミノグリコシド | データなし | 相乗効果があることは広く知られているが、投与順序が 影響するかは不明 |
抗菌薬投与の注意点
抗菌薬の配合変化
パシル®やセフトリアキソン®は配合変化に注意が必要です。
パシル®は中性~塩基性の薬剤との混合で白濁します。
そのためパシル®を投与する時は、生理食塩水でフラッシングが必要です。
セフトリアキソン®はカルシウム含有輸液と混合すると、不溶性異物が形成されることがあり、
その沈殿物が肺野腎臓に沈着して致死的反応を起こしたという報告があります。
また、投与経路についても同時投与によって発生する場合だけでなく、
セフトリアキソンの血中半減期の長さから、異なる時間に異なる経路から注入した際にも
相互作用が起こったと報告されています。
抗菌薬の併用禁忌
抗菌薬との併用で、併用薬または抗菌薬の効果が減弱することがあります。
代表的な例では、バルプロ酸ナトリウム製剤とカルバペネム系抗菌薬とを併用すると、
バルプロ酸ナトリウムの血中濃度が急速に大きく低下し、てんかん発作が誘発されます。
このようにカルバペネム系抗菌薬が使用できない場合は、
ペニシリン系抗菌薬が選択されることが多いです。
このように併用禁忌薬は少なくなく、一部例を示します。
抗菌薬®(一般名) | 併用薬®(一般名) |
---|---|
エリスロシン(エリスロマイシン) クラリス(クラリスロマイシン) | オーラップ(ピモジド) |
ダラシン(クリンダマイシン) リンコシン(リンコマイシン) | エリスロシン(エリスロマイシン) |
フルマーク(エノキサシン) バクシダール(ノルフロキサシン) ロメバクト(ロメフロキサシン) スオード(プルリフロキサシン) | ロピオン(フルルビプロフェン・アキセチル) フロベン(フルルビプロフェン) |
カルバペネム系抗菌薬 | デパケン(バルプロ酸ナトリウム) |
スパラ(スパルフロキサシン) | リスモダン(ジソピラミド) アンカロン(アミオダロン) |
リファジン(リファンピシン) ミコブティン(リファブチン) | HIV感染症治療薬 ブイフェンド(ボリコナゾール) |
ブイフェンド(ボリコナゾール) | ハルシオン(トリアゾラム) テグレトール(カルバマゼピン) |
シナシッド (キヌプリスチン・ダルホプリスチン) | オーラップ(ピモジド) 硫酸キニジン(キニジン) |
抗菌薬の臓器移行性
・薬剤の抗菌力
・体内動態
・副作用
・投与方法
・効果が高い投与方法
・耐性菌の回避
臓器移行性は、目標とする臓器にある濃度で抗菌薬が届くというデータを基に
抗菌薬の効果を予測するという1つの因子でしかないのです。
臓器移行性が不良でも治療効果を発現する場合もあります。
臓器移行性はその薬の臓器クリアランスや組織への親和性などが関係します。
クリアランスとは、体の中に入った薬(商品)が、臓器(客)によってどれだけ除去(購入)されて、
どれだけ体内に残るか(在庫)によって、
感染を起こしている場所への影響を考えることができる指標のことになります。
抗菌薬内服時の注意点
薬の内服時は水かお茶で飲むようにと注意されると思います。
飲料によっては薬剤の効果を減退させてしまうもの、苦味が強く出て飲みにくいものなどがあります。
特に小児科では内服時の工夫が必要となります。
それぞれの抗菌剤での飲食物と味覚についてまとめられているものがあるので紹介します。
品名® | 水 | スポーツドリンク | ウーロン茶 | 牛乳 | オレンジジュース | リンゴジュース | 麦茶 | ヨーグルト | アイスクリーム |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
サワシリン細粒 | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 |
ケフラール細粒小児用 | 〇 | ✖✖ | ✖ | ✖ | △ | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
トミロン細粒小児用 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ |
セフゾン細粒小児用 | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ |
メイアクト小児用細粒 | △ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | △ |
メイアクトMS小児用細粒 | ✖✖ | △ | △ | △ | ✖ | △ | ✖✖ | ✖✖ | ✖✖ |
フロモックス小児用細粒 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | ◎ |
ホスミシンDS | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ |
ミノマイシン細粒 | ✖✖ | ✖ | ✖ | ― | ✖ | ✖ | ✖ | ― | ― |
リカマイシンDS | 〇 | ✖ | 〇 | 〇 | △ | △ | △ | 〇 | 〇 |
クラリスDS小児用 | 〇 | ✖✖ | 〇 | 〇 | ✖✖ | ✖ | △ | ✖ | ◎ |
安齋千春ほか:Pharma Medica.22(11):125-128.メディカルレビュー.2004より引用
次に相互作用について紹介します。
品名 | 飲食物 | 機序および併用上の注意 |
---|---|---|
ニューキノロン系、テトラサイクリン系、セフジニル | 牛乳、にがり、ミネラル(マグネシウムMg,カルシウムCa,鉄Fe,亜鉛Zn,銅Cu) | Caなどの金属イオンとくっついて吸収が著しく抑えられる |
テトラサイクリン系 | ビタミンA | 薬により頭蓋内圧が高まり、頭痛が強められる可能性がある |
アモキシシリン・クラブラン酸カリウム | 牛乳 | 薬剤の消化管吸収が減少し、血中アモキシシリン濃度が低下する |
セファレキシン | 牛乳 | 特に哺乳瓶中で混合するとセファレキシンのバイオアベイラビリティ※1が低下する |
セフェム系(セフォペラゾン、セフメノキシム、セフメタゾール、セフブペラゾン、セフミノクス、ラタモキセフ) | アルコール | アセトアルデヒド脱水素酵素※2活性が阻害され、血中のアセトアルデヒド酵素の濃度が上昇し、アンタビューズ(ジスルフィラム)※3様作用である顔面紅潮、心悸亢進、めまい、頭痛などが現れることがある |
クラリスロマイシン | グレープフルーツジュース | フラノクマリン誘導体※4により、小腸上皮細胞に存在するCYP3A4※5が阻害され、血中濃度が上昇しクラリスロマイシンの副作用が発現する可能性がある |
リファンピシン | 牛乳、にがり、ミネラル(MG,Ca,Fe,Zn,Cu) | キレート※6を作成し吸収が阻害される |
イソニアジド | カジキマグロ | 頭痛、紅斑、掻痒感などのヒスタミン中毒、顔面紅潮、発汗、嘔吐などの中毒症状が発現する |
チーズ、ワイン | イソニアジドはモノアミン酸化酵素※7(MAO)阻害作用があり、イソニアジドの服用によりチラミン・ドパミン・ノルアドレナリンなどのカテコールアミンを代表する内因性および外因性のアミン濃度上昇が引き起こされるため、血圧上昇などの中毒作用を発現する可能性がある | |
イトラコナゾール | コーラ | 消化管内pHが変動してしまい吸収が遅延することで、胃腸障害をはじめとした副作用を発現する可能性がある |
ボリコナゾール | セイヨウオトギリソウ※8(セント・ジョーンズ・ワート) | セイヨウオトギリソウによりCYP3A4が誘導され、ボリコナゾールのAUCが59%減少する |
※2:アルコールを飲んだ時、エタノールの代謝物質がアセトアルデヒドといい、それを分解する酵素(ALDH)。
※3:嫌酒薬のことで、お酒を飲むと気分が悪くなったり、お酒が嫌いになったりする効果がある。
※4:グレープフルーツを代表とする柑橘類に含まれる成分。はっさくや夏みかんなどにも含まれている。
※5:多くの薬物を代謝する酵素で、主に肝臓に多く存在するが小腸にも存在している。
※6:複数の金属イオンを結合している状態のこと。
※7:モノアミンとはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質の総称。
※8:黄色い花を咲かせる植物。花の抽出エキスが軽度~中等度のうつ病に効果があるとされ、サプリメントとして世界中で愛飲されているが、多くの薬物相互作用があるため、日本では厚労省より注意喚起が成されている。
【参考・引用文献】
三鴨廣繁監修:「ナースのための抗菌薬つぎの一歩」、南山堂、2011初版
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